それから私は、たった数日だったけど、気の遠くなるような旅を経験することになっ
た。
小さな身体と、それに見合うだけの小さな歩幅。羽を一生懸命羽ばたかせても、空を
自由に飛び回ることはできない。普通に歩くよりも少し速いくらいのスピードで、私は
とにかく前へと進んだ。
クリスがこれから暮らすアパートの住所は、はっきりと覚えていた。一通目の手紙は、
すでに私の机の引き出しにひっそりと収まっていた。私の想いが綴られたその手紙は、
決してクリスの元に届くことはない。でも、こうして役には立ってくれたみたいだった。
それに、ピオーヴァまでの道のりも、すでに頭の中に入っていた。
ナターレに――そして新年に、ことあるごとにクリスに会いに行こうと、何度も列車
の時刻表なんかを眺めたりした記憶は、まだ鮮明に残っている。
道をゆく人々の目には私の姿は映らないらしく、時々は人の足にしがみついたりして、
バスにも乗った。そんな風にして、目的の駅につくまでに、ほぼ丸一日かかった。
そのせいで、それほど多くの数が出ているわけではない夜行列車の時間帯には間に合
わず、次の日まで時間を潰すことにもなったが、姿を消して、意識だけの存在になる術
も身につけた。
始めは不便だと思っていたこの身体も、思ったより悪くなかった。時々は、どうして
こんな妖精になったんだろうとも考えたけど、結局その答えはわからなかった。
ただ、ファータという名の妖精に、私は憧れていたんだとも思う。それだけのことだ
ろう。
次の日になり、私は列車に乗った。考えるのは、クリスとトルタ、そして自分のこと
だけだった。これからどうするかとか、どんな風にクリスに自分のことを説明しようか
とか。
三年後、クリスが卒業してからのことは、できるだけ考えないようにした。
そして、長いトンネルをくぐり終えると、街並みが一変した。窓の縁に腰を掛けて、
それを眺める。その頃には、私はもう考えを固めていた。
なりたい自分に、なればいい。
トルタのピアノに合わせて歌ったときのことを、私は忘れていなかった。クリスのフ
ォルテールの音に合わせて歌えるとしたら、それはどんなに素晴らしいことだろう。
歌を歌って、いつもクリスの側にいて……。そんな幸せな未来を思い描いた。私には
過分なほどの、夢。だからこそ、タイムリミットもまた存在している。
三年間。あれほど長いと思っていた時間は、こうして考えてみると、なんて短いんだ
ろうと感じた。でも、そうしていられるだけでも、奇跡のようなものだった。
私はそれ以上高望みをするのを止め、現実的にものを考えるようにした。
それにまだ、クリスが私を受け入れてくれるかどうかもわかっていないのだ。いきな
り妖精が現れて、なんの疑問ももたずに受け入れてくれるなんて、それすらも思い上が
った考えだろうか。
でも……クリスならそれを受け入れてくれるような気もしていた。
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